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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)168号 判決

控訴人 田島常雄

右訴訟代理人弁護士 平山林吉

被控訴人 佐藤松之助

右訴訟代理人弁護士 坂本昭治

右同 塩谷國昭

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

一、控訴人が昭和四五年一二月二二日被控訴人から三〇〇万円の交付を受けたこと(但し、被控訴人から直接交付を受けたか、あるいは訴外町田英二を介してかはしばらくおく)、その際被控訴人に対し甲第一号証(控訴人自筆の借用証と題する書面)が交付されたことは当事者間に争いがない。そして、被控訴人本人尋問の結果(原審及び当審)及びこれにより成立を認めうる甲第五、第六号証を総合すると、被控訴人は右三〇〇万円を前同日京浜信用組合から返済期昭和四六年二月二八日、利息日歩七銭七厘五毛(これを前払いした)の約束で借り受け、これを交付したことが認められる。

二、被控訴人は右三〇〇万円は控訴人に対し貸付けたものである旨主張し、被控訴人本人尋問の結果(原審及び当審)中には、被控訴人方へ金策に来た控訴人に対し、直接右三〇〇万円を手渡し、控訴人からその証として甲第一号証の交付を受けた旨の供述部分が存するのであるが、同供述中にはさらに右貸付けは無利息、無担保で、返済期の定めも明確にしていなかった旨、あるいは控訴人の金策の理由も詳しく聞かなかった旨の部分も存するのであって、商人である被控訴人が利息を前払いしてまで調達した金員を特段の事情もなく無利息で他人に貸付けることは不自然といわざるをえず、さらに、右三〇〇万円交付の経緯についての後記認定の事実に照らすと、右三〇〇万円が貸金であるとの被控訴人の供述はたやすく措信しがたく、また甲第一号証も貸付金であるとの証拠とし難く、他に右三〇〇万円が貸付金であるとの証拠はない。

すなわち、〈証拠〉を総合すると、控訴人は訴外村上武夫から同人所有の伊勢崎市大正寺町字中堀三一九番地の一(地目田、九二七平方メートル)の土地を代金四九八万円で、内金二〇〇万円を契約時に支払い、残金二九八万円を所有権移転登記に要する書類完備のとき支払う約束で買受け、かつ訴外町田英二に対し右土地を他に転売する代理権を授与したこと、訴外町田英二は控訴人の代理人として昭和四五年九月一九日被控訴人に代金五六二万円で、内金二五〇万円を契約時に、残金三一二万円は被控訴人に対する所有権移転登記手続と引換えに支払う旨の約束で売却し、被控訴人から受領した二五〇万円を控訴人に交付した。その後控訴人は刑事事件の被疑者として昭和四五年一〇月七日逮捕された(同年一一月六日保釈)等の事件が発生したので、訴外村上武夫から右土地の売買契約を白紙にもどすといわれる心配が生じた。そこで被控訴人は、右土地の所有権移転登記手続が契約どおり履行されない場合を考慮して、残代金の支払いは貸金名下にして欲しいと、町田英二を介して控訴人に伝えたので、控訴人は同年一二月二二日、訴外町田英二にいわれるまま金三〇〇万円の借用証(甲第一号証)を作成し、同日同人を介して被控訴人にこれを差入れて三〇〇万円を受領し、このうちから訴外村上武夫に対し同月二三日二〇〇万円、同月二五日九八万円を各支払い同人に対する右土地の残代金の支払いを完了したこと、右甲第一号証には右残代金の支払いの経緯をあらわす文言として右土地の登記(所有権移転)を行う金としてと但書がなされていること、なお右土地は被控訴人の意向で同年九月二四日右同番の一の土地及び右同番の三の土地に分筆登記が既になされていたところ、後者については同年一二月二五日被控訴人所有名義に所有権移転登記がなされ、前者については被控訴人の意向により同月二五日訴外町田英二所有名義に所有権移転登記を経由したうえ、昭和四七年一一月一四日被控訴人を権利者として所有権移転登記請求権仮登記がなされていることが認められ、証人町田英二の証言(原審及び当審)及び被控訴人本人尋問の結果(原審及び当審)中右認定に反する部分は措信しがたく、また乙第一号証、甲第三号証は、町田証言によれば、後日になって適当に作成されたもので、売買の真実の経過を示すものとは認められず、他に右認定に反する証拠はない。

以上認定した事実によれば、被控訴人主張の前記三〇〇万円の交付は、控訴人から被控訴人に売却した前記土地の残代金の支払いと認めるのが相当であり、これを貸付金なりとする被控訴人の本訴請求は失当というべきである。

三、よって、右と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瀬戸正二 裁判官 小堀勇 小川克介)

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